Tuesday, February 26, 2008

くうらん

くうらん

シフォンケーキに入れるたまごの黄身は白身より一個分減らさなくてはならなかったのだ。

焼きあがった小麦粉と砂糖とたまごの混合物の底に二ミリほど金色の層がありちょっと削って口にしてみると樹脂のような質感のそれはたしかに小麦粉と砂糖とたまごの味がしてしかしそれはシフォンケーキとは別の食べ物だから包丁を差し入れてぺろんと、

切り離す

夕焼け、窓外に金色の

空の底、電線とビニールハウスの骨組みでこまぎれになった空に染め付けられた金色この風景には名前があった英語だったゴールデン、その次の単語は何だったろうか。

太陽は窓から見える風景には含まれておらず。

イメージの中でゆるゆるとうごく金色の球体。

降りてくるものだけ相手にしていればよいのだ。

そのとき
イメージの中のたまごの黄身がくるんと、

分裂する

薬缶、目前に湯の湧いた

いのちが奔流ならばそれは内を向いてひたすら内を向いて流れているのであり。

しゅうしゅうと音を立てて湯は煮えたぎりこんな湯では紅茶は入れられないのでガスを止めると音は止まる、はずが静かに小さく沸騰は続いていて。

イメージの中のたまごの黄身がぱちんと、

破裂する

金色、流れ出して底に溜まる。



  ★also readable:ウェブ女流詩人のつどい蘭の会創刊号「ほんだな」 テーマ:たまご
  ★初出:群青

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