線香に火をつけて雨よけの下に置いてから墓石に水をかけると石があったまっちゃって割れるから石は雑巾で拭くくらいでいいんだよ、って、Bブロック3-187でお経を上げている最中に、そっちに立ち会っていた青い作業服のおじさんがわざわざBブロック3‐184の掃除をしにきた私達に言った。割れたらまたすごいお金がかかるから大事にしてね、とも言った。
ああそうですか、ありがとうご親切に、と私達は口々に答えた。
散らかった花びらを全部拾って、「○○家先祖代々乃墓」ではなくただ「やすらかに」とだけ刻まれた文字に溜まったままの水を気にしながら両手を合わせた。
背が低く横長の墓石だが線香の匂いは変わらない。いや値段の割にいいもの出してないなと思ったが口には出さなかった。煙い。煙い線香はよくない。
とにかく広い霊園の正面入り口のまん前の石屋が、花と貸し桶と線香をセットで1600円で出していてそれを使ったのだが、季節柄菊の花はなくてカーネーションの赤が目に痛かった。緑が足りないからフェニックスが背景に立つように組んでしっかり結わえられていた。フェニックス。
Bブロック2‐183の花は飾って何日経つのか、フェニックスの葉が黄色くなっていた。
帰りに、墓場の中に梅園があるから見に行こう、と誰かが言い、アルファベットじゃなくて数字の3区の隣の小さくもないスペースを端から端まで歩いた。鼻が届く高さに白とピンクの梅が満開で、いちいち匂いをかいで回った。
梅の花は人にこびる匂いがする。
ふりかえれば昔ながらの背の高い墓石。3区は区画全体に盛り土がしてあった。一区画が大きいのは、本家が買って、分家の墓や地蔵を建てるためだと思うが古い墓場で見られるような「家の墓」は見つからない。広い敷地に芝生がしかれていて、やっぱり鼻の届く高さに白水仙が咲いていたので、匂いを嗅いできた。
白水仙の匂いを体に入れると息がしやすい。
霊園から出るとき自動販売機ジャスミン茶を買って嗅ぎながら飲んだ。笑った。
帰り道は俗にいわゆる桜のトンネルでもうすこししたら徐行わき見運転で大渋滞になる道なのだが匂わない花に用はない。
家に帰ったら、風呂を沸かして、古くなったカモミールのお茶をぶちまけて入った。これは失敗。花弁がこまかいから薔薇と違って後片付けが大変。
タルコフスキーの短編をかけながら背を向けて眠りについた。
会った事のない叔母さんの夢を見た。
初出 http://po-m.com/forum/ [2007年2月18日13時25分]
Subscribe to:
Post Comments (Atom)
No comments:
Post a Comment